2011AW_BGEF42_S_L2

サムライレポート

~続けることの大切さ~ 北アフリカのモロッコにて、雑貨オンライン販売事業で起業した宮本 薫氏(ディアモロッコ代表取締役)

2011/12/28  

LINEで送る
Pocket

モロッコ。
その国名を聞いたことがある人は多いと思います。

北アフリカの西側に位置するアラブ系国家です。人口は約3200万人。
イスラム教徒が多く、アラブの春の後でも王政を目立つ問題なく維持している国。

モロッコでは観光客にはとても有名なモノが幾つかあるのですが、
そのひとつがマラケシュの市場です。

この延々と続く巨大な迷路のような市場(スーク)には、
買い物好きな女性ならたまらないほど、可愛くてお洒落なアイテムが並んでいます。
そして、モロッコといえば勿論のサハラ砂漠ツアー!(僕も参加しました。)

さて、今回はモロッコのマラケシュ在住の宮本薫さんにご協力をお願いしました。
宮本さんはモロッコを拠点にディアモロッコというオンラインショッピングサイトを運営しています。
オリジナルアイテムの企画生産まで実施しているとのことです。

自己紹介と、これまでの歩みについて教えてください。

1975年生まれ。
1999年 Webサイト「ディアモロッコ(http://www.dearmorocco.com/)」オープン
2000年より個人事業主として、モロッコ雑貨販売などをスタート
2001年よりモロッコ・マラケシュ在住
2003年 モロッコで有限会社Dear Morocco S.A.R.L設立
2007年 日本でディアモロッコ株式会社設立
2011年 『モロッコのバラ色の街、マラケシュへ』を出版。

家族はモロッコ人の夫、5歳・2歳の子供。

ディアモロッコは、もともとモロッコの旅行情報や文化を紹介するための総合情報サイトでした。

私がモロッコに出会った当時、モロッコの事をネットで検索すると
「インドと同じくらいかそれ以上に柄が悪くて騙される国」
と言うネガティブな情報ばかりが出てきて非常に残念に思った事がきっかけ
です。

今考えてみると、まだモロッコに出会ったばかりで、知識も浅かったのですが、
それでも私自身が知ったポジティブな、モロッコの良い所を紹介したいと思いました。

サイトをスタートした当時は、
オンラインショッピングが日本でどんどん伸びている時期で、モロッコで見つけたものの販売を開始。
モロッコ雑貨を扱う日本人が珍しかったために、
近い立場で応援して下さるリピーターのお客様が少しずつ増え始めました。

2000年にオールアバウトジャパンのモロッコ担当に採用され、マラケシュに引っ越ししました。
マラケシュで暮らし始めた事でお客様が欲しいと思われるものをタイミング良くお届けできるようになり、
軌道に乗り始めました。

また、オールアバウトの仕事を通じて、
レストランの内装買付け、雑誌の取材コーディネート、製品調査等、
様々な種類のお仕事のオファーを頂き、暮らし始めた頃に色々な仕事をしたことが良い経験になりました。

2003年にモロッコで会社設立後は、卸売りもスタート。
卸売りで一般的に使われる用語すら分からないなど、
毎日が新しい事の連続でしたが、当時まだ20代だったと言う事もあり、
お客様を含む周りの方々に色々と教えて頂きながら、徐々に取引して頂ける先が増えました。

ディアモロッコの活動・事業内容について教えてください。

バブーシュ、マルシェバッグ、ラグ、インテリア雑貨などの企画生産、輸出、小売り、卸売り業です。
バブーシュ、マルシェバッグは殆どの商品をオリジナルデザイン、自社工房で生産しています。

小売りはオンライン販売のみ。
卸売りは全国のインテリア・雑貨店、百貨店などでお取り扱いいただいています。
従業員は日本法人が8名、モロッコ法人が45名で、毎週エアカーゴで日本向けに商品を出荷しています。

宮本さんのディアモロッコでの役割・仕事内容を教えてください。

日本法人、モロッコ法人の代表者です。
最近では、モロッコ、マラケシュに居る事の方が多いですが、
どこに居ても両方の仕事が見られる様に、仕事は殆どグループウェア上で行っています。
私の役割は、商品全体のイメージを作り出す事、
日本とモロッコの仕事のバランスを取りつつ全体を見る事です。

例えば、
日本のオフィスで働いているスタッフは、日本のお客様に全面的に寄り添った姿勢、
モロッコのオフィスで働いているスタッフは、モロッコの事情に寄り添った姿勢になりがちです。

日本とモロッコの間で仕事をするためにはバランスが重要なので、
そのあたりのかじ取り役が私の仕事です。

また、毎日の仕事が忙しくなると、新しい事に目を向ける事が難しくなりがちですが、
ずっと同じことを繰り返して居れば良いと言うものではないので、
常に今後どうするか、何を残して何を新しくしていくか、と言う事を考えています。

新商品開発をデザイン担当者と二人三脚で行っています。
新色を決めたり、一点物を買い付けに行ったり、新しい素材をセレクトするのも重要な仕事です。

創業当時は、
商品の買い付けから修理、梱包、発送、お客様へのメール連絡まで全て一人
で行っていましたが、
今は大部分を担当者に任せているので私の仕事は、上記+商品写真撮影+αと言ったところです。
モロッコでのいわゆる社長業的な仕事は全て共同経営者の夫が行っています。

現地のモロッコ人を多数雇用されていると思いますが、マネジメント面で工夫されていることがあれば教えてください。

モロッコ人への直接的なマネジメントは、モロッコ人の夫が行っています。
トップが二人居ると混乱しますし、
特に保守的な職人さん達を取りまとめるのは、彼らの事をより理解できるモロッコ人男性の方が適任です。

職人さん達と共に、日本人社員が常に数名働いています。
日本人とモロッコ人が働く場合、日本人は最初モロッコ人の仕事の欠点ばかり目に着いてしまい、
手取り足取り改善しようとしますが、大事なところだけは重点的に教えて、
後は一人一人に責任を持たせて、本人の自覚と責任で仕事をしてもらうと言う事が大事
かと思います。

相手もその仕事で生計を立てているプロですし、長年の経験があります。
評価や収入につながると言う事が分れば、良い仕事をしてくれるようになります。

モロッコと日本とで、異なるビジネスマナー・商習慣があれば教えてください。

イスラム圏ですので、暮らしの隅々にまで宗教が関わってきます。

例えば、
仕事の約束をする際も、「**のお祈りの後に」と言うようなアポの入れ方をしますし、
大きな商売をしている人が、毎年一カ月巡礼に行くと言う事も珍しくありません。
日本であれば、一か月間社長が仕事をしないと言う事は考えられませんが、
モロッコではかえって、その人個人への信頼
に繋がります。

ビジネスに限らず、モロッコでは挨拶が非常に重要なのですが、
仕事の話だけでなく、相手のプライベートな近況を覚えておいて尋ねあう事もマナーです。
会社対会社と言うよりは個人対個人としての付き合いを大切にしている人が多く、
例えば、相手の子供の年齢や名前まで、皆良く覚えて再会した時に近況を尋ねあいます。

女性が働く上でのマナーも色々有りますが、
相手に不快感を抱かせない為に、服装には気を付けます。

また、相手が男性の場合は、こちらから握手の手は差し出しません。
敬虔なムスリムで、異性とは握手をしない人も珍しくないからです。

モロッコでは、会社や銀行のトップとして、議員として働いている女性も多数居ます。
日本ではビジネスの場で女性と知り合った際に初対面でプライベートな話題が出ることは少ないと思いますが、
モロッコでは「結婚しているかどうか、子供は居るかどうか、得意な手料理は何か?」等、
女性であることを意識した話題が良く出ます。

商習慣は、色々有りすぎて書ききれません。

モロッコに渡った理由を教えて下さい。

広い世界と様々な価値観を見て回りたいと思い、大学時代にバックパックを背負って旅に出ました。
ヨーロッパ、北米などを周りましたが、何故かトルコの旅が非常に印象に残りました。

またトルコのような国に行ってみたいと思い、次の旅行先を考えて居た時に、
パリで購入したサハラ砂漠のトゥワレグの写真を思い出し、モロッコへ。

初めてのモロッコ旅行の際に夫の家族と知り合いました。
夫の実家は18世紀に建てられたクサール(要塞化された村)にある、非常に古い家で、
家族の女性たちは全員リザールと呼ばれる真っ黒い布で全身を隠して居ました。

彼女たちの生活や感じている事に興味を持ち、
卒論のテーマを「モロッコ女性の暮らし」にしたことがモロッコとの出会いです。

海外で働くという志向を元々お持ちでしたか?

私の場合、国際結婚ありきの海外起業なので、
具体的に海外で働きたいと言う志向はそれほどありませんでしたが、
学生時代は国際的なホテルマンに憧れていました。

子供の頃、英語を習いに通っていたお宅のご主人がアラブ人でした。
幼稚園の頃にアメリカのサマースクールに三カ月だけ通った事があるのですが、
その時の担任の先生がアラブ系でした。
不思議な縁を感じます。

言語の壁以外に、モロッコにきてから立ちはだかった困難はありますか?

最初は新しい事の連続で、仕事も忙しく、寝る暇も無い様な毎日でしたが、
軌道に乗り始めてしばらくした頃に、モロッコが嫌になっていた自分に気が付きました。

何故かその時期、モロッコの欠点ばかりが目につき、食べるものも人の話し方も町並みも、
すべてにアレルギー反応の様に嫌悪感があり、
一時はテレビをつけて、アラビア語が聞こえて来るだけでイライラしていました。

おそらく、全く異なる文化の中で暮らして仕事をする事のストレスが一気に出たのだと思います。
しばらく、悩む日々が続きましたが、ただ毎日するべき事をしている内に、
またモロッコの事を好きになっている事に気が付きました。

具体的なトラブルや困難は今でも数えきれないほどありますが、
暮らしが長くなるうちに問題解決能力も上がってくる
ので、殆ど気にならなくなりました。

海外(モロッコ)で働くこと、生活することの魅力について教えて下さい。

モロッコ人と言うのは中々先が読めない人々で、
びっくりするような失敗をするかと思えば、
こちらが想像もしていなかったような素晴らしいものを作ってくれる事もあります。

日本で仕事をしていると、経験を積めば積むほど、驚くことは少なくなると思いますが、
モロッコの仕事では、毎日が新鮮な驚きに満ちている所が魅力
だと思います。
また、モロッコで仕事をしていると言う事で、モロッコを縁に様々な人と出逢える事も魅力の一つです。

暮らしの中では、全てがゆったりとしたリズムの中にありますから、
色々な事を丁寧に行う時間があると言う事が魅力です。

例えば、
新鮮な野菜や果物を郊外の朝市に買いに行き、丁寧に作った食事をいただけること、
父親が昼休みに帰宅して子供達とゆっくりと過ごす時間を取れること、
週末は郊外の自然の中で更にゆったりとした時間を過ごせること等。

今後の予定や将来の夢(目標)について教えてください。

2012年から新事業をスタート予定で、つい先日手続きが終わりました。
また、創業時から取り扱っている手織りのラグ&カーペットの販売について、
2012年は力を入れたいと考えて居ます。

ディアモロッコと言うWEBサイトをスタートした時の初心である
「モロッコの良い所を伝えたい」と言う気持ちを大切に、少しずつ育てて行きたい
と思っています。

2011年にはマラケシュのガイドブックを出版しましたが、
将来、観光に限らず、より広い観点からモロッコを紹介する本を書く事が目標です。

モロッコは私が来てからの十数年の間に急激に変化しました。
更に十年後には変わってしまうのであろう文化や習慣をできるだけ見て、書き残したいと思っています。

最後に、日本の若者にメッセージをお願いします。

世界中には様々な価値観の国や地域があります。
自分が居たいと思う場所で暮らす自由を手に入れる為に、少なくとも英語を身に着けておくと良いと思います。

会社を始める、どこかの国に住んでみる等、新しい事を始める場合、「続ける」事が大事です。

山あり谷ありなので、諦めたくなる事もありますが、
粘り強く続けていると、良い事が必ず訪れる様に思います。

起業や海外暮らしは、最初の数年で諦めてしまう人も多いので、
「経験を積む」と言うそれだけの事にも、価値が生まれチャンスが生まれます。

海外で暮らすと言う事自体が目的になっている人も居ますが、
海外の暮らしも毎日の生活の積み重ねですから、半年もすると平凡な日常になります。

外国語も単なる道具で、何を話すかが重要と言われるのと同様、
海外で暮らす事自体では無くて、何をするかが大切だと思います。

以上、宮本さん、ご回答ありがとうございました!

参考URL:
ディアモロッコ:http://www.dearmorocco.com/
facebook:http://www.facebook.com/dearmorocco
出版物:『モロッコのバラ色の街、マラケシュへ』 (Amazon Link)

あとがき

”海外で暮らすこと自体が目的になっている人”への適切なメッセージは共感致します。

ただ暮らすのではなく、やはりその土地で働いてみて見えてくる面白さもあるのではないかと思います。
その為にはやはり、言語能力だけではない他のスキルが必要なんだろうなと痛感します…。

前に聞いた言葉ですが、
「英語を話せるだけなら、路上で寝ている米国のホームレスと一緒。」という言葉があります。

正確にはアメリカ人のホームレスは日本語を話せないでしょうから、
日本人が英語を身につければ彼らよりは優位性はありますが、
それでも翻訳家や通訳などの特別領域までいかないと、
言語能力だけで職を掴むのは難しい時代なのだと思います。

いろんな人が言いますが、
やはりスキルや経験値というのは重要なのだと改めて実感します。

また、宮本さんはモロッコ関連の書籍の執筆活動も行なっており、
既に日本におけるモロッコの第一人者です。
そんな宮本さんでもモロッコのことが嫌になったりした時期があったとは驚きました…。

ですが、宮本さんは「続ける」ことで、モロッコの良さにも気づくことができ、
今もこうしてモロッコに住んでいるそうです。

何事もそうですが、確かに宮本さんの言うとおり、「続ける」というのはとても大切なことなのだと思います。
宮本さんも「続ける」ことを辞めていたら、今モロッコにはいないかもしれません。
ディアモロッコも無いかもしれません。でも、宮本さんが実際に居るのは続けたからなのでしょう。

僕自身も旅が終わった後に、海外での仕事や起業に強く興味を持っています。
そんな僕も宮本さんを見習って、「続ける」ことを心掛けなくてはならないんだなと学ばせて頂きました。

宮本さん、ご協力ありがとうございました!

太田英基

LINEで送る
Pocket

  • 日本最大級の留学情報サイトSchool With(スクールウィズ)
  • CareerWith

, , , , , , , , ,


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です